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サムライ、キリスト、ニーチェ、沢田研二… そしてミック・ジャガー
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10年も前の新婚時代のことだ。
私が結婚したのは、子供を持って自己中心の世界から脱却したいからだった。
夫について移って来た新天地でさっそく子作り計画に励んだが、ほどなく流産した。
そんなはずじゃなかった。
近所に住む、夫の同僚の奥さんは「出来ない」」とこぼしていたが、結局先に身ごもった。
暇な主婦の子作り競争だ。
彼女と日がな1日駄弁る日々にいいかげんあきていたが、趣味を持たない彼女は私にべったりと寄りかかってくる。世に知れた大会社の社長令嬢で、ドラマを見ながら「あんなアパート絶対住めないよねー」なんて言う。
ぼろアパートで一人生きてきた私はうなずくことができなかった。
妊婦の荷物を持ってあげながら「私は何をしているんだろう」と思い、
彼女を避けるように、不妊検査や鍼に通うようになった。
ルサンチマンや強迫観念は、人をすきだらけにするものらしい。
鍼の先生のお誘いで「とってもよかった」セミナーというところへ行こうと決めた。
癒されるためならお金は惜しくなかったということか。
旦那を説得し、宿泊費と交通費、3日間の受講料10万をぶんどって大阪へ行った。
自己紹介やグループ分けのあと、全員参加の様々なトレーニングをこなす。
たとえば私がこれからどんなに不幸になっていくのか思いつく限り語るというもの。子供に戻って親に言えなかった不満をカタルシスするもの。
絶妙のタイミングで流される、長淵剛やさだまさし、中島みゆきといった
暗いとされる歌謡曲がわざとらしい。
結局はこの泥臭さが、日本人に一番訴えるものなのだろう。
だんだん主催者側の意図が読めてきた。
自己批判をさせておいてトレーナーがそれについてコメントする。
「あれ?今私が言ったことを繰り返しているだけじゃないか」。
横一列に並ばされるとトレーナーが一人一人に耳元でささやいていく。
ボソッとしたその殺し文句を、床にくずおれんばかりにして受ける女性。
何を言ったか知らないが「私だけにかけてくれる一言」は貴重なのだろう。
おそらくその場のきまぐれなのに。

一日目が終わり、ほんの少数だがぷりぷり怒っている人もいた。
しかし大半は、もうすっかり雰囲気に酔ってしまっていた。
2日目には完全に覚めていたが、こうなったらすべてのトレーニングを
大はりきりで楽しんでやろうと決めていた。
自分を捨てろと言われれば、その気になって大声を出してみた。
2日間わたしたちは閉ざされた空間からトイレに行くこともままならなかった。
集団催眠術の常套手段とは後で知ったことだ。

極めつけは最後のトレーニングだった。
2重の輪になってフォークダンスの要領で変わっていく相手に合図する。
「目をそらす」「握手する」「抱き合う」だったかな。
どれを選択してもいいので、私は最後まで握手で通したかったが
次第にみんな抱き合っていくので、多勢にさからえず同じようにした。
最後にはみんな抱き合って、思惑通りというわけだ。
「わかったよー」と言って泣き出すいいオッサンがいる。
みんな笑顔だ。
この中の何人が本心は冷めているのか見当もつかない。
だって私も実はどこかで感動してしまっているのだから。

最終日の朝、目をつぶらされ手をひかれて、いざなわれた。
どこへ連れていかれるのかもうわかっていたので、目をあけたかったができない。
私をセミナーへ誘った鍼の先生が花束を持って待っていた。
もう一人そこへたどり着いた男性は目をあけたとたん泣き出した。この人はマジで目をつぶって「何だろー」と歩いてきたのか? 絶望的だ。

当然ながらみんな3倍高額の次のステージに誘われた。
決意した人がみんなから拍手喝さいを浴びている。
断った私はあせったスタッフに別室へこっそり連れられた。
そこには目の据わったそれでなくとも人相の悪いデブのトレーナーが居た。
何を言っておどされたのか、耳に入っても受けとめないように精神統一していたので、もう覚えていない。
口ほどでもないあきらめのいい彼に比較的早く解放されたらしい私は
帰途で「やったぞ」という気分だった。自分のことをだまされやすいだろうと思っていたが、意外と大丈夫だ。
ぼろアパートでここまで成長してきた自分に乾杯。
しかし世の中にだまされやすい人は一杯いて、そっちの方がこわかっ
た。
だまされていると決めつけるわけにもいかないのだが。
だから私にできることは、鍼の先生に黙って本を貸すことだけだった。
『洗脳されたい』にはセミナーの実態が事細かに載っている。
判断するのは、彼だ。

先生は修行を積み重ね、ずいぶん上のステージまでのぼりつめていた。
その彼が数日後「読んだよ。申し訳なかった」と、今後の治療費をタダにして
つぐないたいと言って来た。
お言葉に甘えて一度だけ行ったが、さすがにそれ以上は遠慮した。
お互い得るものがあったのなら、それでいいとしたかった。
余計なことだったのかもしれないが、もう確かめる術もない。






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